ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「私と…何?」  


「俺…沙希と再会してわかったんだよ。
やっぱり、お前が好きなんだって。
あれからいろんな女と出会ったけど、
ダメなんだ。
俺、お前じゃなきゃダメなんだ」  


やはりだ。
今日、呼び出したのはこれが本題なんだろう。  


「調子いい事言って…
勇次にあの時の私の気持ちがわかる?」  


「それは…許されない事だとわかってる。
でも、償うことはできるだろ?
俺、お前が好きなんだ。
お前のこと大事にしたいんだ」  


響かないなぁ。
熱がこもってるというよりは自分勝手にリードを引っ張ってるだけだ。  


「無理ね。 気づくのが遅かったんじゃない?
あ、失くしたから気づいたのかな。
よく言うじゃない。
大事な物は失くした後に気づくって」  


怒りも相まって、完全に上から切り捨ててやった。  


「でも、お前だって…」
ハスキーが更にすがりつく。
「じゃ、あの晩のことは…」  

ほら、やっぱりだ。
単純すぎる。
こっちは久々の『散歩』を嫌々付き合っただけなのに…。簡単に元サヤに入ると思ったら、大間違いでしょ。  


「私が最高だったでしょ、 と気づかせるためよ」  

一刀両断。
ガックリと項垂れるハスキー。
6年分の鬱憤を吐きだしたからか、心の中がスッキリ晴れていく。  

「でも…」
こちらの意に反して、ハスキーの目は死んではいない。

「俺は諦めないからな。
相手が大和さんだろうが、
奪い取ってみせる」  


――勝手に勘違いしてるし…

――ありえないんだけど

――でもまぁ、根性だけはあるんじゃない  


「じゃ、私を 振り向かせるように頑張ってみたら?」


沙希の挑発に黙って頷くハスキー。
その眼差しは真剣で、単なる負け犬の遠吠えでもなさそうだ。  


「沙希、お前強くなったな。」  

「そうさせたのはあなたでしょ?」  


最後にそう言葉を交わすと、二人は席を立った。
店を出て別れる間際に、ハスキーが振り返る。  


「いいか、絶対に
一人では鷲尾に会いに行くなよ。
絶対…だぞ」  


「わかった。忠告ありがとう」  


それだけ念を押されると、それは本心なのだと思う。
確認が済むと、踵を返し、ハスキーは逆方向へと去って行った。


< 70 / 153 >

この作品をシェア

pagetop