ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
時計の針を見ると、9時前を指していた。
沙希も行き交う人波を掻い潜りながら家路を急いだ。
あんまり遅いとハチが心配するからね。
と早足で帰ってはみたものの、今日もカギは掛かったままだった。
――そういえば、遅くなるかもって言ってたっけ
シンと静まり返った部屋に入り、疲れ切った体をソファに預ける。
いつもなら、ハチが夕食を用意してくれているが今日はそうもいかない。
自分で作るのも億劫なので、仕方なくバスルームへと向かった。
お風呂に浸かりながら、今日仕入れた情報を頭の中で整理する。
シェパードと土佐犬の女絡みの確執
それによってシェパードに変化があったこと
シェパードとハスキーが知り合いだったこと
土佐犬の女癖には気をつけること
あれこれ思い出すと、今日もいろいろあったなぁと溜息が洩れた。
それにしても、納得いかないのはシェパードだ。
土佐犬が女癖が悪いのは、彼の性分だから仕方ない。
問題は過去にそんな事件がありながら、私を担当に据えたことだ。
一体、彼は何を考えているんだろうか?
私をビジネスの道具として、他に何か使う気じゃないだろうか?
彼の真意がわからない中でヤキモキしてもしょうがないんだけど…
なんだか腑に落ちないが、かといって直接訊くわけにもいかない。
明日はまた何かしら起こるだろうから、早めに寝ることにしよう。
バスルームから出ると、ハチの姿はまだなかった。
が、代わりにラインの連絡が入っていた。
《 今日も残業で遅くなる。ゴメンな 》
こういう時こそ傍にいてほしいんだけどと思ったが、ハチにも大事な仕事がある。
まぁ、傍にいてくれたところで相談はできないしね。
頑張ってねというラインを送って、早々にベッドに潜り込んだ。