ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
水曜日の散歩
子猫
「村上さん、何かあったんですか?」
出社するなり、コリーが心配そうに訊いてきた。
「特に何も… 単なる遅刻よ。
心配しないで…大丈夫だから」
照れ隠しにサラッとコリーをはねのけて、またデスクで頬杖をつく。
コリーが気にかけるのも無理はない。
一時間も遅刻してきたばかりか、席に着くなり物思いに更けっている女。
何かあったんだろうかって詮索されないほうが不思議だ。
表情が浮かないことから、良い事か悪い事かで選択すれば十中八九後者で周りは推測するだろう。
あろうことか転部4日目にして私は遅刻した。
だが、物思いに更ける原因は……遅刻したからじゃない。
遅刻したのはただの寝坊であって、問題でも何でもない。問題は、寝坊した理由だ。
いつもなら、ハチが優しく起こしてくれる。
今日もそのはず…だったのに、そうはならなかった。
彼が忘れていたわけではない。
したくてもできなかったのだ。
そう、 朝になってもハチは帰ってこなかった。
どんなに遅くなろうとも、ハチがハウスに帰ってこない日はなかった。
帰巣本能さながらに、無理をしてでも帰ってきていた。
私が待ってることを想えば、シッポを振って喜び勇んで走ってくる。
それこそがハチがハチたる所以だ。
ともすれば、私の取り越し苦労なのかもしれない。
朝、ラインを送ったら、即座に返事が返ってきた。
《昨日は徹夜になっちゃって、帰れなくてゴメン。
今日は早く帰るから》
返事を鵜呑みにすれば、不安な要素は微塵も感じられない。
でも、どこかおかしい。
腑に落ちない。
返事はすぐに返ってきたが、それは私が送ったからだとも言える。
考えば考える程、沙希の心の中で波紋が広がっていく。
ハチの忠誠心は本当に向上していたんだろうか?
自分が気付かないだけで、本当は揺らいでいたんじゃないだろうか?
最近、私の夜遊びが過ぎてたのも事実だ。
だとしたら、自分の慢心を戒めるだけで事は済む。
だが、そうではない『何か』が別にあるような気がした。 確信こそないが、漠然とした不安が心の中で波打ちあう。