ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
コリー
昼休みにハチに電話してみよう。
そうは決めたものの、浮かない顔でシャーペンをクルクルと回していると、
「ちょっと気分転換でもしますか?
あまり根詰めてもはかどらないですしね」
と気遣ったコリーがコーヒーを淹れてきてくれていた。
私の態度を見て、仕事で行き詰ってると勘違いしたみたいだ。
勘違いとはいえ、そうした気遣いはなかなかできるものじゃない。
賢い犬種よろしく、若いのに気が利く名犬だ。
「ありがと」といいながら、沙希はコーヒーを受け取った。
「デスクワークも結構体力消耗しますからね。
でも、部長はすごいですよ。
一日中、デスクで根詰めても
疲れた表情一つ見せないですからね」
コリーの言葉につられてシェパードのデスクに目を向けると、キリッとした表情のシェパードがピアノを弾くようにキーボードを叩いている。
さすが警察犬。
いつ見てもシャキッとした姿勢で、毅然と見事に振る舞っている。
ハチのことで頭が一杯だったが、シェパードに見惚れていると、ふと昨夜のハスキーの話を思い出した。
暢気にコーヒーを啜っているコリーにそれとなく訊いてみることにした。
「あ、ところで鷲尾産業って経営難なの?」
「あ~、僕も詳しくは知らないですけど、
なんかヤバいって感じみたいですよ」
「会長に問題あり…なのかな?」
「どうしてですか?」
「だって、
鷲尾会長ってワンマンそうじゃない。
他人の意見とか聞かなそうだし…
それに…女癖悪そうだもん」
唐突な質問に啜っていたコーヒーに咽ながらコリーが目を見開いた。
「な、鷲尾会長の女癖…ですか?」
「そう、絶対悪いよ、女癖。
この前の接待でも私を舐めるように見てたし…
なんか、寒気がするって思って…」
沙希の少し盛った話にコリーは奥歯に物が詰まったような表情を見せた。
ここぞとばかりに沙希は矢継ぎ早に話を続けた。
「前にも女性が担当してたこと
あったんでしょ?
その人も嫌だったんじゃないかなぁ?」
沙希の無邪気を装った質問にコリーは完全にうろたえている。
「部長に訊いてみようかなぁ?」
「何を」
コリーが目を見開く。
「ですか?」
「その前に担当してた女性のこと。
気になるじゃない。
ちなみに、その女性って…」
と言いかけたところで、突然コリーが立ち上がった。
意を決したように沙希の背中を押して休憩室へと促した。