ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
シェパードの過去はハスキーとコリーの話で合致した。
単なる噂ではなく、事実のようだ。
――恋人を奪われても平然としてるなんて…
2匹の話を鵜呑みにすれば、シェパードの非情さは腹立たしい。
が、その反面、疑問が残る。
一昨日の夜のことが引っ掛かった。
別れ際、また飲みましょうと約束した私に、シェパードは少年のような笑顔を見せていた。
まるで純朴そのものみたいな笑顔
あの笑顔をするシェパードがそんな非情なことをするのだろうか?
デスクに戻って、シェパードのデスクを一瞥する。
相変わらず、真剣な眼差しでパソコンの画面を睨んでいる。
――同一人物なのだろうか?
――二面性があるってこと?
疑問が交錯して立ち尽くしていると、フロアの端から声が掛かった。
「村上さん、3番にお電話入ってます。
鷲尾産業さんからです」
土佐犬から?
一瞬気後れしたが、すぐに担当者の自覚を取り戻して「はい」と返事をした。
威圧的な土佐犬の顔がパッと浮かぶ。
できれば電話に出たくはないが、担当なんだから私が出るしかない。
恐る恐る電話機の赤く光る3番のボタンを押した。
「はい。村上ですが」
「お世話になります。 鷲尾産業の鮫島です」
――鮫島?
――ああ、ドーベルマンか。
てっきり土佐犬かと構えて出たものの、「はい?」と拍子抜けした声で沙希は答えてしまった。
よく考えれば、会長自らが電話してくることはないだろう。
すぐに咳ばらいを一つ入れると、声音を変えて挨拶をやり直す。
「お世話になっております。
どう致しましたでしょうか?」