ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
ハチ
昼になり、沙希はハチにまずラインを送った。
《今、電話してもいい?》
ラインで返事が来ると思いきや、既読になった途端、ハチから電話が掛かってきた。
「沙希、ゴメンな。
昨日は帰れなくて…
それで、どうかしたか?」
いつも通りのハチの口調。
後ろめたさがあるようには思えなかった。
が、ある点だけは確認しなきゃならない。
「ううん、
大したことではないんだけど、
徹夜したっていうから
体調大丈夫かなって思って…」
「ありがとな。でも、
体力だけは自信あるから
俺は大丈夫だよ。
それより、沙希こそ気をつけろよ。
慣れない仕事で疲れてるんだから」
自分の体調よりも私を気遣うハチの言動に安堵する。
と同時に、本題を投げかける前に気を引き締めた。
「ありがと。
で、ライン来たけど、
由紀恵さんも徹夜だったんでしょ?
女子まで徹夜なんて…
修一の会社は今が繁忙期なの?」
「いや、繁忙期はこれから。
今忙しいのはうちの部署だけだよ。
まぁ、といっても
毎晩徹夜することはないけどな。
ちなみに昨日の夜だって、
部下がトラブル起こしちゃって
その処理に追われただけだ。
大和さんまで付き合う必要はなかったし
彼女は一旦帰ったんだけど、
2時くらい…だったかな。
差し入れ持って来てくれたんだ。
ちょうど腹減ってたから
助かったけどな」
私の質問を尋問と捉えないのはハチらしい天然さだけど、それを差し引いてもハチの口調からは不審な点は感じられなかった。
それにこれだけの説明を平然と即座に嘘つけるほど、ハチは強かではない。
「白」確定。
子猫とホテルで乳繰り合ってたなんてことは、まずなさそうだ。
ハチの説明を聞き終えて、沙希はホッと胸を撫でおろして電話を切った。