ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「…私は」
敢えて怯えたフリで訊いた。
「退職しなきゃならないんでしょうか?」
「おいおい、
そんな乱暴なことは言ってないだろう。
こちらとしては大袈裟にするつもりはないし、
穏便に済ませたい。
そこでだ。
ある依頼を受けてほしい。
君が受けてくれると言うのなら…、
今後の詮索も処罰もしないと、
そう思ってるんだが…どうかね?」
「依頼…ですか?」
予想外の展開に言葉が詰まった。
「あの…どういうことですか?」
「来週の木曜日の夜、ある男の自宅に行って、
写真を撮られてもらいたい」
「自宅に行って?…
写真を…何でですか?」
どういうこと?
私にポメを諦めさせたかったんじゃないの?
しかも、写真を撮られるって…
まぁ、どうせ良からぬ悪巧みに違いない。
胡散臭さがプンプン臭う。
「そうだ。
簡単なことだ。
部屋に居るところを写真に撮られればいいだけだ。
別に寝てくれとは言ってないぞ。
まぁ、ハグぐらいはしてくれても構わんが…」
ブルの下ネタジョークに合わせて、パグが卑しく笑う。
「そんなこと…」
嫌悪感を露わにしてキッパリと答えた。
「できません。」
「ほぉ~」
ブルが上目づかいに顎を摩る。
「できるできないの問題じゃない。
君はやらなければならない立場だと思うが…ね」
これは依頼なんかじゃない。
命令だ。
断れば、社内恋愛禁止の規則を破った罰として退職もやむを得ない。
しばらく沈黙が続いた。
「誰と……でしょうか?」
「その質問は承諾したと受け取って
話を進めるが……いいな?」
沙希の返事を待たずに、ブルは話を切り出した。