ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「相手は営業企画部の大和部長だ。
ここ最近、当社の独自企画が
他社に先を越されてるのは君も知ってるか?
まさかとは思うが、
情報が漏えいしているのではないか
という声が社内であがってな。」
「情報の漏えい?……
その犯人が大和部長なんですか?」
「まぁ、まだ黒と決まったわけではない。
とりあえず、噂ではというレベルだ。
が、火の無いところに煙は立たん。
というわけで、
我々は彼を調べていたんだが、
彼も簡単にはシッポは出さんだろう。
そんな折、ある筋のタレコミでね。
どうやらベリーベリーの人間と接触している
という情報が入った。
が、証拠がない。
そこでだ。
彼を問い詰めるために
交渉のネタを作りたいのだよ」
「交渉の?…ネタ?」
「そうだ。
我々としては
他社の精通していた人間まで割り出したい。
が、単に問い詰めるだけでは
口を割ることはないだろう。」
「そうでしょうか?」
「彼はキレる男だからね。
総務部としては慎重に事を運びたい。
違うとなれば、
それこそ総務部が後ろ指を指されるからな。
何、君が深く考える必要はない。
彼を問い詰める為の単なるきっかけ作りだよ。
わかるだろ?」
わかってる。
胡散臭いのは、ね。
敢えて聞いただけだ。
「問い詰めるために、写真が必要なんですか?」
「君と同じく社内恋愛を理由に退職を天秤にかけたら、
口を割ると思うがね」
「でも、情報漏えいの犯人だとしたら、
結局クビになるんですよね?
それがわからない人じゃないと思いますが…」
「じゃあ、どうしたら彼が事実を吐くと思う?
若くして部長まで登り詰めた男だ。
保身に走るに決まってる。
事実を話しさえすれば、
情報漏えいは伏せておこうと言えば話すだろう。
もちろん、事実だとしたら
放ってはおかんがね。
我々としては、噂がある以上、
放っておくわけにはいかんのだよ、村上君」
「じゃ、彼が社内恋愛のクビの方を選択したら、
私も同罪ですか?」
「君は写真を撮られれば、それで御役御免。
あとは体調を崩したとでもいって、
休暇でも取ってればいい。
それに彼が君との社内恋愛を選んだ時点で、
情報漏えいは黒だとなる。
その後の彼への処遇は我々の判断次第だ。
心配することはない。
君には被害は及ばんよ。」
「でもそれって…
どの道、大和部長は退職ですよね?
罠にハメろってことじゃないですか。
私、そんなことできません。」
「罠だなんて、人聞きが悪いな。
きっかけ作りだと言ってるだろ。
彼が無関係だとわかれば、
一転して無罪放免になるんだ。」
「でも、どうやってやるんですか?
部長の自宅でなんて…」
「やり方なんかどうでもいい。
君に任すよ。
まぁ、坊ちゃんを取り込んだその色香を使えば、
朝飯前のことじゃないか?」
簡単だろ?とブルが笑う。
その横でパグがやはり笑っている。
できることなら、セクハラだって大声で叫びたい。
「色香って…」
断りたい一心であえて謙遜した。
「私、そんな美人でもないし…」
「まぁ、嫌がろうが
君は受けざるを得ないんだがね」
二匹は妙な強気の姿勢を崩さない。
規則違反で退職を突き付けられたら、私が従順になるとでも思っているんだろう。
退職はキツいけど、この際仕方がないか。
変な依頼も受けたくはないし、何よりブルとパグにデカい面をさせたくない。
「退職」という言葉が喉から出ようとした時だった。