ワンだふる・ワールド ～飼育系女子の憂鬱な１週間

シェパードとドーベルマン

店の門のところまで来ると、ドーベルマンが立っていた。背筋をピンと伸ばし、相変わらず感情の読めない冷徹な目がこちらを捉えている。  


「御社までお送りします」  


立ちはだかるドーベルマンに目を合わさないように脇を抜けようとする。
午前の電話で、平然と嘘をつく輩だ。
土佐犬の命とあらば、何でもこなすのだろう。
君子危うきに近寄らず、逃げるが勝ち、だ。  


「結構です。失礼致します」  

と早口で返して脇を抜けたと思った時、不意に背後から手を掴まれた。
突然の事に驚き、瞬時に全身に緊張が走る。
振り返ると、感情のない眼が感情がない仕事をこなしていた。
不気味さに怯え、反射的に叫んだ。  


「は、離してください」  


必死に手を振りほどこうと抵抗すると  


「鷲尾の指示ですので、お送りします」  


沙希の必死の抵抗にも表情一つ変えずに、ドーベルマンは掴む拳の力を強めた。
手を後ろに回され、停めてあった車の後部座席へと無理矢理押し込められそうになった。  


「い、嫌、やめて」  


必死の抵抗も空しく頭を押さえられ、半身ほど車に押し込まれた時だった。  


――誰か、助けて  


と願った瞬間、掴まれていた手の力が弱まった。

あれ？
と思い、振り返ると
ドーベルマンの手が背中に捻じりあげられ顔が苦痛に歪んでいる。



その後ろに立っているのは、まさかのシェパードだった。  


――え！？…何で？