ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「何も…
ただ今回の件、頼むとだけ
言われました」  


嘘をついた。

秘書になれと言われたと正直に伝えれば、シェパードは理性を失うだろうことは推して知るべし、だ。  


「それだけ? 本当に?」  

「本当です」  

「そうか。 それならいい」  


沙希が声を震わせて答えたことで、シェパードは穏やかな表情に戻った。
訊きたいことは山ほどあるだろうが、シェパードはそれ以上は訊こうとはせず、窓の外に目を移し黙っている。  


シェパードとの会話に気を取られていたが、気づけばタクシーは靖国通りに入っていた。
混んでいたため、歌舞伎町の信号手前まで来るのに前の車につかえてはまた走りと、ノロノロ運転を余儀なくされた。


しかし、沙希にとっては好都合と対面の大手雑貨チェーンの店辺りを目で追った。
大勢の人が行き交う中で二人を探すのは到底難しい作業だが、出来る限りのことはしたい。

が、ゆっくり進んでいるとはいえ、やはり車の中から探し出すことはできなかった。
そもそも思い過ごしだったのかもしれない。
陽子の一言に過敏に反応していただけかもと沙希は自分に言い聞かせる。  


勝手に安堵した沙希が体を前方に向き直した時だった。
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