ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
ハスキー
部屋に入るなり、エアコンのスイッチを入れて、メイクを落とす。
10時30分には家に着いていたことを状況的に作り上げるためだ。
メイクを落とし終えたところで、陽子に電話しようと携帯を手に取る。
どう対処しようか悩んだ挙句、陽子に相談してみようと思ったからだ。
が、陽子に電話を掛けたが、電話に出ない。
仕方なく携帯をソファに放り投げ、冷蔵庫からビールを取り出すと、携帯の着信音が鳴った。
「陽子、ごめん夜遅くに。 今、大丈夫?」
「はぁ?
誰と間違えてんだ。俺だぞ」
てっきり陽子からの電話だと思い込み、沙希は画面も見ずに電話に出たが、掛けてきたのはハスキーだった。
「え? 勇次?
あ、今ちょっと取り込んでて…
後にしてくれる?」
「なんだよ、
お前が調べてくれって言うから
いろいろ情報集めたのに…
でもまぁ、
その感じなら大丈夫そうだから
とりあえずよかったけど…」
今はそれどころじゃないと電話を切ろうとした沙希だったが、ハスキーの一言が引っ掛かった。
「大丈夫ならよかったって
どういうこと?」
「お前、あれだけ忠告したのに
一人で菊水に行っただろ?
何かあったんじゃないかって
思ってさ」
「何で知ってるの?」
と聞いてから沙希はシェパードとの会話を思い出してハッとする。
――匿名の電話って…
「ひょっとして…
会社に電話したのって…勇次?」
「そう、俺。
実はさ、鷲尾の鮫島から電話があって
渡し忘れたものがあるから
取りに来いって言われてさ、
で、菊水に行ったら鷲尾がいたんだよ。
嫌な予感がしてさ。
ひょっとしたら、WAONも
呼ばれてるんじゃないかって思ってな。
それで、電話したんだ。
大和さんは会社にいるみたいだったし、
お前、一人で行っただろ?
何もなかったか?」
なんと匿名の電話でピンチを救ってくれたのはハスキーだった。
鮫島のことを話せば、シェパード同様、ハスキーも理性を失いかねない。
敢えて暴行のことは伏せておくことにした。