エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
それでもこうして出向けばもしかしたら会ってくれるのではないかと一縷の望みにかけたのだ。


「承知しました。少々お待ちください」


私は受付嬢が内線電話をかけ始めたのを、ドキドキしながら見守っていた。
商品を見てもらえさえすれば、よさはわかってもらえるはずなのに。

峰岸織物は、その昔は和服の反物を多く扱い、一番栄えていた頃は大きな工場を構え、三百人ほどの従業員を抱える会社だった。

反物だけではなく、緞帳(どんちょう)なども手がけている。とある市民公会堂の舞台の大きな緞帳も、我が社が制作したものだ。

富士山と桜の木があしらわれたその緞帳は、機械に頼ることなく職人が五百色もの糸を操り織り上げたもので、綴織(つづれおり)緞帳と言われる最高級品。

まさに、峰岸織物の技術の高さを示した代表作だ。
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