エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
「そんなの、あんまりです……」


稲田さんの声が泣き声に変わった。


「好きな女がいると、話したよな」


翔さんの声が少し柔らかくなった。

それって、私のこと? 

じゃあ、彼女からの告白はわりと最近で、彼は返事を曖昧に濁して、仕事上の関係を続けていたわけじゃないんだ。


「……はい」
「それが、彼女だ。前にも話した通り、稲田のことは同志だと思ってる。ブランピュールの立ち上げからずっと支えてくれた稲田には、感謝しかない。大切な社員だから、俺のデザイン画が稲田の今後に役立つのなら、持っていけばいい」


翔さんの言葉に驚愕した。
彼がデザインを取り返そうとしなかったのは、そういう意図もあったんだ。

それから稲田さんがすすり泣く声が聞こえてきた。
そして翔さんは、しばらくなにも言わなかった。


「ホントはわかってたんです。私のことなんて、社長の眼中にないってこと。でも、なにも失敗したくなかった。仕事も恋も……」
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