エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
彼女は声を震わせながら続ける。


「それなのに、全部失敗しちゃいました。ごめんなさい。お返しします。マルグリットにはもうコピーもありません」


ドアを隔てているので見えないが、デザインを返してくれたようだ。
だけど、これじゃあ稲田さんはもうマルグリットにもいられない。


「全部失敗なんてしてないだろ」
「えっ?」


翔さんの問いかけに稲田さんが怪訝な声を出す。


「お前はどこでもやっていける能力がある」
「そんな褒め言葉、欲しくありません」


彼女はきっぱり断言する。
欲しいのは、翔さんの愛の囁きなのだろう。


「ブランピュールに戻すのは難しい。別の会社を紹介しよう」
「社長……」
「稲田は俺が見いだしたできる部下だ。自信を持て。ただし、もう二度と誰も裏切るな」


翔さんは静かに、そして諭すように話す。


「……はい。肝に命じて。でも、社長はずるいです。そうやって誰にでも優しいから、好きになっちゃうんですよ」
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