エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
「うん。先生が着流しで十分だって。そもそも男の人が着物で来てくれるのがうれしいって、喜んでた」
「そうだよねぇ。最近は着物の需要も随分減ってしまったから、一ノ瀬さんのように着たいと思ってくれる人がいるのはうれしいよ」


和服の反物を得意としていた峰岸織物の業績が傾いてきたのは、需要がガクンと減ってしまったのが大きい。

男性のみならず女性も着る機会は激減しているし、少し前までなら成人式の振袖をあつらえて……なんてこともあったが、今はレンタルが主流だ。


「それと、これも」
「えっ、なに?」


橋さんがもう一着、淡い藤色の生地に鼓や小花が散らされている上品な訪問着を私に差し出すので、首を傾げた。


「これは今のうちの技術を全部詰め込んだ一品だよ。砂羽ちゃんに着てもらいたいんだ。近い将来、一ノ瀬さんの実家に挨拶に行くこともあるだろう?」


翔さんの実家に挨拶って……。結婚という意味?
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