エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
「それは、本当に申し訳ありません」


玄関ですれ違っただけで、ろくな挨拶もしなかった。


「いえ。翔さんから事情をお聞きになりましたので、なにも心配はありません」


坂井さんの言葉に小さくうなずく。
そんなつらい状況でも、悠馬さんという理解者がいてくれてよかった。


「ですから、重人さんと翔さんが手を組んで画策されたようなことは絶対にありません。それどころか、一ノ瀬の奥さまは十年ほど前に離婚され家を出ていかれましたので、重人さんはそれを翔さんのせいだと責任転嫁して恨まれているような節もあります」


だから重人さんは翔さんにあんなに冷たい態度を取るのか……。


「結婚のご挨拶にいらっしゃったとき、久しぶりにお会いしましたら、翔さんの表情が本当に柔らかくて……奥さまと出会われてお幸せなのだと感じたんです」


坂井さんはうっすらと涙まで浮かべている。

ずっとそばで見守ってきた彼女は、翔さんの冷遇に心を痛めて苦しんでいたのかもしれない。
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