エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
それから一時間。
十九時を過ぎたあたりで、ガチャッと鍵が開く音がしたかと思うと、廊下をバタバタと走る足音がする。


「砂羽」


リビングのドアが開いた瞬間、翔さんは大きな声で私の名を口にした。


「おかえりなさい」


私が笑顔で迎えると、彼は複雑な顔をしながらも「ただいま」と言ってくれる。

私は調理の手を止め、彼のほうに体を向けた。


「昨日は、心配をかけてしまってごめんなさい」


八坂さんの話を聞いて、一番に謝ろうと思っていた。


「そんなこと……いいんだ」


翔さんは私に歩み寄ってきたが、いつものように抱きしめようとはしない。
帰ってきたあとのハグとキスは、もう習慣だったのに。

遠慮しているのだろう。


「戻ってきてくれてありがとう。俺のほうこそ謝らないといけない。本当にごめん」


彼が深く頭を下げるので慌ててしまう。
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