エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
社長室をあとにして玄関へと向かう途中、席を外してくれた稲田さんとすれ違った。


「先ほどは、申し訳ありませんでした」
「いえ。社長の意向には私たちは従いますが……」


そこで一旦言葉を濁した彼女は、私を鋭い目で射る。


「社長が困るようなことがあれば、私が許しません。社長がなんと言おうと、全力であなたを排除します」


宣戦布告、のようだった。
でも、彼女の言うことはもっともだ。

自分が慕う上司に危機が迫っていれば、それをなんとかしようとするのは当たり前。


一ノ瀬さんの好意に甘えすぎているのはわかっている。

それでも、峰岸織物の伝統をつなぎたい。
今はなにを言われてもこのまま突き進むしかない。


「はい。肝に命じておきます」


私が深く頭を下げると、彼女はヒールの音を高らかに響かせながら去っていった。
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