うさみみ短編集
そんな口調も気にせずに、プロペライダーは直ぐに僕から顔を逸らす。




「この目玉は、空を飛ぶ為にあるんだ。プロペラは空を颯爽と飛ぶ為に人間が作った、最高傑作だ」




彼が首を振るたびに涼しい風が巻き起こる。彼が喋るたびに、その風は僕の前髪を優しく撫で続けた。
そして彼は続けた。




「お前、ヘリコプターってしってるか?」



「知ってるよ、そんなん」僕は即答に近い声で彼に頷いた。




彼は僕がそれを知らないと思ったのだろう、少し声のトーンが落ちた。実に分かりやすい落胆ぶりだった。




「何だ、知っているのか。前にオニヤンマに話した時は、目をギョロギョロさせて驚いてたが」




「オニヤンマ?」
「オニヤンマを知らないのか?トンボだ。ヘリコプターを知っていてオニヤンマを知らないなんて、変な奴だ」





彼の中ではヘリコプターは奇想天外なもので、オニヤンマは常識の一つなのだろう。




少し驚きと動揺と呆れの混ざった声だったが、直ぐにまた落ち着いた物腰の口調へと変わった。


「ヘリコプターには、俺と同じプロペラがついているだろう。



 あれは俺たちの憧れの存在だ。あれは俺たちの英雄だ。



 俺はいつか、あの空を飛び回る自由な風に乗るんだ。オニヤンマやヘリコプターの様にな」



彼の口調は弾んでいた。夏休みを待つ子供の声の様だ。僕はそれを不思議そうに聞いた気がする。




何よりプロペライダーの夢を語る口調は、僕にはそれそのものが憧れの様に感じていた。




なりたいもの、というのが良く分からない僕にとって、目玉だけのプロペライダーが夢を人間より馬鹿でかく語るのは、爽快で清清しかったからだ。





勿論、彼の外見に恐怖心を抱いているのは変わってないが。





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