うさみみ短編集
蝉
ミーン、ミーン。ジジジジ…。
庭の松の木に止まった、あの差し込む眩い光の隙間からけたたましく聞こえてくる懐かしい鳴き声。
ティーシャツにじっとりと汗ばんだ染みをつけながら、虫取り網を抱え、その光との隙間に焦点を合わせる様に目を細めて見上げたあの夏の日。
網をかけるとジジジと尻の方を震わせる様に鳴いて、黄緑色の肩掛けられた小さな虫かごで飛び回ってはぶつかるあの姿。
真っ青な雫の溶け出す、棒つきのソーダ味のアイスキャンディーを口に咥えながら、あの夏の日は皆でその蝉を見詰め合っては高揚心に身を震わせた。
誕生日に買ってもらった分厚い、自分で抱え込むに精一杯の図鑑をテーブルの上に広げて、自慢げにそれらのページを見開いては、名前を真っ白なチラシの裏に書きとめた。
彼らの鳴き方には色々あると知った、彼らは短い命である事を知った。彼らは土の中で殆どの一生を過ごすのだと知った。
彼らはもう一枚の殻を剥いで、その綺麗な泣き声を響かせて、やがて朽ちると知った。
自由研究という太いマジックで書かれた画用紙の表紙を、教室で日焼けした顔のまま先生の机に置いた。
研究テーマのサブタイトルは「蝉のからだ」、先生はその画用紙に銀色の折り紙をのりで貼り付ける。
銀賞なのだ。銀色の折り紙を貼り付けられた子は銀賞、金色の折り紙を貼り付けられたのは金賞。
教室の中の約四十人もの生徒の中で銀賞は三人で、金賞は一人。僅か十分の一の確立で、その栄誉は勝ち取られた。
先生の温かな大きな手が、自分の少し寝癖交じりの髪を撫でる様に触れてくれた感覚と、周りの机に座っている他の子たちが、目を丸くして一斉に手を叩いたその目の前に、自分はその一瞬立っていた。
止みならない拍手は、終わり無い様なあのけたたましい鳴き声と似ていた。
庭の松の木に止まった、あの差し込む眩い光の隙間からけたたましく聞こえてくる懐かしい鳴き声。
ティーシャツにじっとりと汗ばんだ染みをつけながら、虫取り網を抱え、その光との隙間に焦点を合わせる様に目を細めて見上げたあの夏の日。
網をかけるとジジジと尻の方を震わせる様に鳴いて、黄緑色の肩掛けられた小さな虫かごで飛び回ってはぶつかるあの姿。
真っ青な雫の溶け出す、棒つきのソーダ味のアイスキャンディーを口に咥えながら、あの夏の日は皆でその蝉を見詰め合っては高揚心に身を震わせた。
誕生日に買ってもらった分厚い、自分で抱え込むに精一杯の図鑑をテーブルの上に広げて、自慢げにそれらのページを見開いては、名前を真っ白なチラシの裏に書きとめた。
彼らの鳴き方には色々あると知った、彼らは短い命である事を知った。彼らは土の中で殆どの一生を過ごすのだと知った。
彼らはもう一枚の殻を剥いで、その綺麗な泣き声を響かせて、やがて朽ちると知った。
自由研究という太いマジックで書かれた画用紙の表紙を、教室で日焼けした顔のまま先生の机に置いた。
研究テーマのサブタイトルは「蝉のからだ」、先生はその画用紙に銀色の折り紙をのりで貼り付ける。
銀賞なのだ。銀色の折り紙を貼り付けられた子は銀賞、金色の折り紙を貼り付けられたのは金賞。
教室の中の約四十人もの生徒の中で銀賞は三人で、金賞は一人。僅か十分の一の確立で、その栄誉は勝ち取られた。
先生の温かな大きな手が、自分の少し寝癖交じりの髪を撫でる様に触れてくれた感覚と、周りの机に座っている他の子たちが、目を丸くして一斉に手を叩いたその目の前に、自分はその一瞬立っていた。
止みならない拍手は、終わり無い様なあのけたたましい鳴き声と似ていた。