囚われの王子様。
再び意識を目の前の画面へと戻すと、隣の席の神崎さんから、
「いいなー、香子さん」
と、何故かぼやく声が聞こえて来た。
なにが?と返しながら隣に目を向けると、
「香子さん、今から須藤さんの手続きの説明でしょう?」
口を尖らせ羨ましそうにする神崎さんの姿が。
「神崎さんがしてくれてもいいのよ?」
「私ひとりじゃあ無理ですよ!」
目を丸くして、両手でぶんぶん振り拒否する神崎さん。
「本当は、それじゃあ困るんだけどね…」
ぼやき返したみたものの、派遣さんの手続き関係を神崎さんに丸投げしてる手前あまり強くは言えず。
もう1人くらいうちの部門に人が増えてくれないかな、と内心ため息をついていると、神崎さんがふと廊下の方を見た。
そして、『あ!』と大きな声を出す神崎さん。
「須藤さんだ…」
呟いた神崎さんの視線の先へと振り返ると、そこには我が人事部を覗くようにしてキョロキョロとしている男性社員の姿があった。
「わあ、格好いいー。本当に王子様みたい」
うっとりした声でそう呟く神崎さんの声も、社内のざわつきも何も耳に入ってこない。
だって、あそこに居るのは…。
ーーーあの人だ。