囚われの王子様。
一瞬、夢かと思った。
だって、神崎さんに『須藤さん』と呼ばれ、今人事部内に入って来ようとしているのは紛れもなくあの人。
先週の土曜日、運動公園で会った人。私を勝手に彼女役に仕立てた人だ。
彼が須藤 司?!
思い返せばあのとき、確かに女の人が『須藤君』って呼んでた気もする。
でも須藤なんて、特段珍しい名前でもないし気にしてなかった。
こんな偶然ある?
彼が『須藤 司』ということは、私は今から彼と一対一で海外赴任から戻って来た手続きをしなければならない。
うわ、嫌だ。だって、もう一生会わないと思ってたのに。
どんな顔して会えばいいの?
て、私は何も悪いことしてないけれど。
それでも、私が人事部でしかも労務担当である限り避けられない。
あの時は反射的に近くを通った私を捕まえてしまっただけ。
須藤さんも追い詰められてとった行動だし、顔さえあまり見えてなかったはず。
覚えてないよね、きっと。
よし、行こう。