囚われの王子様。
恋がうまく出来ない私、恋をしない彼。
ーーーポーン。
ようやくエンジンがかかり始めた午前10時。
隣の席の後輩の神崎さんがあげてくれた、経理に新しく入る派遣社員さんの書類をチェックしていると、パソコン画面の右下にメールを受信したと通知が表示された。
誰からだろう。
「あ」
予想してなかった差出人の名前に思わず間抜けな声がでてしまう。
「どうしました?香子さん」
「ううん、なんでもない」
突然の間の抜けた声に、神崎さんが反応するけど何事も無かったかのように首を振った。
その返事に、パソコンへと目線を戻した神崎さんを横目で確認しつつ、メールを開封する。
『今日の昼、空いてたら非常階段で』
シンプルで素っ気ないそのメールの差出人は。
ーー『to.須藤 司 (海事)』
やっぱり須藤さんで。