囚われの王子様。
***
エンジンを入れたばかりの車内は、まだ冷えているはずなのに何故かじわりと汗がにじむ。
仕事を早めに切り上げた今、私は須藤さんの車の中で須藤さんとふたりっきり。
『今日、車で来たから灯油買いに行く?』
昼休み、呼び出された先の非常階段へと向かうとそこには須藤さんの姿があって、開口一番にそう言われた。
一瞬、なんのこと?と思いもしたけど、すぐに昨夜須藤さんの彼女のフリをしたお礼の件か、とピンとくる。
まさかこんなに早くお礼をしてもらえると思わなかった。
昨日の今日だ。須藤さんも、早く片付けてしまいたいのかな。
「本当に灯油でいいの?」
昼休みの出来事を思い出していたから、車内に響いた須藤さんの低い声に、思わずびくりと肩が上がってしまう。
「と、灯油がいいんです!」