そのアトリエは溺愛の檻
これは、カレンダーの依頼? というか彼は何者? 誰か有名な人のアシスタントとか?


全貌が見えないけれど、話自体はうまくいっているようだ。会社の一員として商談がうまくいくというのは、本来ならば嬉しく思うのが正解だと思うけれど、正直今の私はそれどころではない。

いち早くこの部屋から逃げ出したい。自分の仕事でないとはいえ、気まずいし、この人とは関わりを持ちたくない。きっとそれは彼だって同じはず。ここはビジネスの場だし、お互いに知らない振りをしてやり過ごすのがベストなのだ。


部長の喜ぶ声を聞きながら、はやる気持ちを抑え、不自然でないようにドアへ歩き、部屋を出るためお辞儀をした。


「待ってください。そのままで」

シゲアキが今までと違う大きな声を出したので何事かと身体を戻すと、彼は私を見ていた。

え、何。今の私に言ったの?

困って部長を見ると部長は小さく頷いている。

もう一度彼に視線を戻すと、彼は部長を見て、話し始めた。


「ひとつだけ条件があります。僕は作品作りに集中したいので、今後のやりとりは一人だけ、専属 の担当をつけていただきたいんです。
意図が伝わりにくいのでなるべくメールでなく直接のやりとりで。アトリエまで作品を取りに来てもらったり、打ち合わせしたりするのもその方に。あ、アトリエはこの街にあるのでそう遠くはないですから」

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