そのアトリエは溺愛の檻


約束の水曜日、17時ちょうどにエントランスで部屋番号を押し、名前を言うと自動ドアが開いた。

あらかじめ階が設定されたエレベーターに乗り込む。どうやら最上階には部屋がひとつしかないようで降りたらすぐに玄関だった。


「いらっしゃい」

迎えてくれたアキはシンプルな薄手の黒いセーターにジーンズというラフな格好だった。それなのに妙に色気が溢れ出していて、直視するのが憚られる。

だけど今は会社の代表として来ているわけだからそんな乙女のようなことは言ってられない。平常心、平常心っと。


「本日はよろしくお願いします」

平静を装い、彼の目を見つめて挨拶して、反応を待つ。


「こちらこそわざわざお越しいただいてありがとうございます。今日はよろしくお願いします。では、こちらにどうぞ」


あれ?

あまりにビジネス的な対応に拍子抜けしてしまう。もしかして考えすぎだったのだろうか。相手だっていい大人なんだし、あの時のことはなかったことにするということなのか。


そう思うくらいに、ソファーにかけてからも金曜日の話はしない。
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