そのアトリエは溺愛の檻
撮影スタジオと居住スペースを兼ね備えたこの場所を彼はアトリエと呼んでいた。

彼の知人がマンションのオーナーらしく、さすがデザイナーズマンションというだけあって凝った作りになっていて、内装だけでなく家具も選び抜かれたものなのだと想像がつく。まるでモデルルームのような部屋だった。


東京で息が詰まりそうになったらひとりでこちらで過ごすことにしているらしく、彼にとっては別荘に近いものなのかもしれない。

だからここにはスタッフもいなくて、ネットで検索してもこのアトリエのことは何も書かれていなかったのかと納得した。



部屋を物珍しい目で見てしまっていたのか、そんな軽い雑談をしてくれた後で、早速仕事の話に入った。

私が昨日社長と部長に確認して作成した資料を使って今後の大まかなスケジュール、コンセプトや写真の枚数等の要望をひと通り伝え、彼は気になる点や確認したいことを質問し、打ち合わせは順調に進んでいった。


「わかりました。費用はご要望の金額内におさまるはずですが、詳しいことは事務所のスタッフのほうから雨宮さんに連絡させますのでご確認ください。
私の方は、お伺いした内容を踏まえて……、そうですね、今月中を目処にイメージをまとめますので、また連絡します」

「ありがとうございます」


そんなに早く動いてくれるとは正直驚いている。忙しい人だと聞いていたからやりとり毎に、数週間かかることを覚悟していたけど、その心配は不要だったかもしれない。


「それじゃあ……」

ようやく終わりだと安心した矢先だった。



「前置きは終わったし、本題に入っていい?」
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