そのアトリエは溺愛の檻
口調も違えば表情も違い、自分の表情がこわばる。

「本題、ですか?」


私にとってはここまでの話が本題以外の何物でもなかったんですけど、と、恐る恐る目で疑問を投げかけると、突然手を引かれた。


「分かってるだろう? 身体の隅々まで知り尽くした仲なんだから」

耳元で囁かれたので、とっさに身体を引こうとしたけど、手を掴まれていてできない。

まずい。この状況は非常にまずい。


「あの、その節は、失礼しました」

「こちらこそ、あんなソファーで悪かったよ。こっちに上がってくればよかったんだけど、君もほら、待てなかったみたいだし」


彼に見つめられ、そんなことを囁かれるとあの日のことが鮮明に蘇ってくる。


やめて。覚えてるから、やめてください。

あの時のことは本当に全部覚えているから厄介なのだ。
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