そのアトリエは溺愛の檻
ーーー

展示の写真をひと通り見終えた頃には雨が随分と強くなっていた。

彼がもう少し雨宿りしたらどうかというので、その言葉に甘え、写真について話を聞くことにした。

展示写真の中でも淡い紫のスミレの花の写真が気に入って、その撮影の話を興味深く聞いていた。彼は途中でワインを出してくれ、一緒に飲み、話は盛り上がっていた。


展示物は風景や自然の写真だけで、人物の写真が一枚もなかった。だけど彼が撮った人物の写真も見てみたいなと思い尋ねてみた。


「人は撮らないの?」

「撮らないわけじゃないよ。あ、もしかして撮って欲しい?」

「やだ、そういうつもりじゃなくて」

「きみを撮るには時間が足りないかな。もっとじっくり知ってからじゃないと」


私の髪を撫でる彼を見て口説き慣れているとも思ったけれど、その手を拒みたい気持ちより、もう少し一緒にいたい気持ちが勝ってしまった。


「きっと素敵なんだろうな。人の写真も。いつか見てみたい」

「そうだね。俺も見せたい」


だから、そのまま近づいてくる彼の唇を受け入れてしまった。そしてそのキスが気持ちよくて、そのまま……。

ーーー
< 23 / 113 >

この作品をシェア

pagetop