そのアトリエは溺愛の檻
「そんなこと!」

そんなこと……。あれ? 言っ……たかもしれない。あの時、いいよって。きれいに撮ってねって。

自分の記憶が恨めしい。忘れていたら、思いきり否定できたのに。


それ以前に、一体どれだけの間違いを犯したら気がすむんだ、あの日の私は。


「思い出した?」

「すみません、あの時は正気ではありませんでした。大変申し訳ないのですが、撤回させてください。そしてその写真のデータを消去していただけると助かります」

「嫌だ。さっきも言ったけど、これ、良い出来だから。ちゃんと見てみてよ」



破かないでね、と手渡されたので、それを眺める。

確かに綺麗な写真だ。黒いソファーに白いブランケット。乱れた黒髪が白い肌に広がっている。曲げた腕が顔を隠していて、お洒落なポストカードのようにも見える。

もちろんそれは被写体が自分でなければの話だけど。


いつか有名なフォトグラファーに素敵なポートレートを撮ってもらいたいなと思ったことはあるけど、こんな形で実現するとは思わなかった。

そして、写真自体は素敵なんだけど、こんな格好をしているし、撮るに至った過程まで総合すると完全にアウトだ。

やっぱりこんな写真をここに残しておけない。
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