そのアトリエは溺愛の檻
恥ずかしさや情けなさで破り捨てたい衝動に駆られるが、そんなことしても仕方ない。データを消してもらわないと意味がないのだから。

「じゃあ、データごと買い取りますので、売っていただけないでしょうか」


プライベートで訳ありでも、彼はとても大切な仕事相手だ。立場も彼の方が強いし、この先のことを考えると、些細なことでも揉めるわけにはいかない。

こんな有名人の撮った写真の価格は想像するだけでも頭が痛いけど、お金で解決できるのであれば、勉強料ということで割り切ろうと思える。


「んー。お金じゃないからねぇ。これ気に入ってるし」

いかにも芸術家らしい断り方に何も言えなくなる。


「じゃあどうしたら……」

「そうだね、ひとつだけ俺の言うことを聞いてくれたら、この写真は好きにしていいけど?」


まるで悪魔のような微笑みで、私を見下ろしている。良い予感はしないけど、話を聞くしかない。

「どんなことでしょう?」

「モデルになって」

「モデル、ですか? 一体何の?」

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