そのアトリエは溺愛の檻


「百音、こっちに視線向けて。そうじゃなくて。んー、ちょっと待って、そのままで」

カメラを置き、悩ましい表情で近づいてくる。

「緊張しなくていいから」

そう囁かれるの同時に隣に座って手を握られ、驚きで身体が強張る。


そもそも緊張するなという方が無理な話だ。

白い背景にたくさんのライト。こんな本格的なスタジオでの撮影はおそらく大学の卒業式のときに写真館で撮ったのが最後だからかれこれ六年以上前のことになる。それにその時は袴を着ていて完全武装した特殊な場面だったわけだし、撮るのも優しそうなおじさんだった。

今みたいに、こんな綺麗な顔をした人に、こんな防御力の弱そうなワンピース姿を撮られるなんて。しかもこんなモデルルームに置いてそうな高級なカウチって、全然くつろげないから完全に借りてきた猫状態だし。

素人にはハードル高すぎる。


「表情だけじゃなく身体もガチガチ。ほら、力抜いて」

いろいろ考えている間に隣から引き寄せられ、抱きしめられる形となっていた。慌てて押し返そうとしても、全然動かないし、子供をなだめるように背中をポンポンと叩かれる。
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