そのアトリエは溺愛の檻
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、今、俺にとって百音以上に魅力的な人間はいないよ」

ソファーから投げかけられた言葉は、彼にとっては言い慣れた何気ない言葉だったのかもしれない。だけど、その甘い言葉に胸の奥が小さく締め付けられ、去年私を傷つけた恋人の言葉が頭に浮かんだ。

『百音みたいにかわいい子、他にいないよ』

彼も同じようなことを言っていた。

でも重秋のリップサービスは仕事のためのものでそもそも本心ではない。モデルをその気にさせるために必要なもの。それはわかってる。一緒にしてはいけない。

もう一年も前のことなのに、まだこんなふうに思い出すなんてダメだな。

頭に浮かんだ言葉を追いやり、動揺に気づかれないよう軽く笑顔を作った。


「それ、他のモデルにも言ってるんでしょう?」

「言わないよ。だって人をモデルにすることは今はないから」

「でもこの撮影、ライフワークって。ということはこれまでにも誰かモデルがいたってことですよね?」


振り向くとソファーにいたはずの彼が真後ろにいて少し驚く。


「もう一杯どうぞ?」


断る暇もなく注がれ、グラスの中で気泡が揺れる。答えをはぐらかされのかなと思って彼を見てみると、私に視線を合わせてふっと笑ってから口を開いた。
< 38 / 113 >

この作品をシェア

pagetop