そのアトリエは溺愛の檻
「確かにゼロと言ったら嘘になる。仕事を選べない頃もあったし。でもね、多少汚い手を使ってでも絶対に撮りたいと思ったのは百音だけだ。どうしてもきみを捕まえて、このカメラに収めたかった」


その汚い手のせいで私はとても困ったことになっているというのに、だけど、ほんの少しだけくすぐったさを感じてしまうのは、私の気のせいか、よほど重秋が人をその気にさせるのが上手いせいかのどちらかだろう。


「多少の汚い手? あれが多少?」

「多少だよ。百音が綺麗だから、中和される」


重秋はそう言って魅惑的な笑顔で私の腕を引き、一歩距離を近づけた。


その気になってはだめ。流されちゃダメ。これは仕事の延長なんだから。

「中和なんてされません。今もその手に困ってますし」


それを聞いて「あーぁ」と言って、私の手を解放した。


「酔っていない百音はあんまり素直じゃないね。あの日はもっと素直に俺の言葉を受け取って、すごく可愛かったのに」

< 39 / 113 >

この作品をシェア

pagetop