そのアトリエは溺愛の檻
その後、担当さん経由で食事に誘われ、何度かデートをして告白され、付き合うことになった。

私より背も高いから何も気を遣わなくて良かったし、年上で落ち着いていて、優しくてかっこよくて、付き合っていて楽しかった。

「百音は可愛いな」って、あんなにたくさん言ってくれる人なんて親以外では初めてで、幸せだった。


「今井さん、素敵そうな人だったのにね」

「一途だったら素敵だったんですけどね」


別れの原因となったのは、彼の浮気だった。別に二人の関係がだんだん冷めていっていたというわけでもなく、私に甘い言葉を囁きながら、同じことを別の相手にもしていたのだ。


今井さんから「今日は残業で大変」と連絡が来た五分後に彼が別の女性と歩いているのを目撃したのは、この三人で飲んだ帰り道だった。

奥田さんは反対方向なので先に別れ、賢木くんと大通りに向かって歩いていた時に、道路の反対側に彼の姿を見つけた。残業は接待か何かでその帰り道なのかなと、何も疑いもせずのんきに考えていた。

そして声をかけようと息を吸ったし瞬間、彼が彼女に軽くキスをしたので、そのまま息が止まった。その日の朝に彼が私にもしたじゃれ合うようなキスだった。

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