そのアトリエは溺愛の檻
「素敵ってまだ言う? 本当に見る目ないよな、雨宮は」

「今のは言葉のあやだよ。賢木くん、私の古傷えぐって楽しい?」

「だって俺、無駄に巻き込まれたし」

「あの時賢木と二人だったからダブル浮気扱いされたんだったね」


彼は「百音もいつも三人で飲んでるって言ってるけど本当はあの賢木って男と二人で飲んでるんだろ。お互い様じゃん」と信じられないようなことを普通な顔で言ってきた。

賢木くんとは確かに仲はいいほうだけど、ただの同期だし、疑われるような関係ではない。そもそも賢木くんには彼女がいる。


私の気持ちが疑われたこともショックだし、彼が二股を別に大したことではないと思っているのもショックだった。このまま関係を続けることは無理だと告げると、「いちばんは百音だから別れなくてもいいのに」と言われ、悲しすぎて何も言えなくなった。


ちょうどその頃、彼の転勤が決まって問題なく別れることができたけれど。そうは言っても、取引先の担当さんとは今でも顔を合わせることはあるので、正直気まずくて困っている。
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