そのアトリエは溺愛の檻
「今思えば、彼の可愛いって言葉に浮かれすぎて、ちゃんと見えてなかったんです」

「あー、でも百音の気持ち、私わかるな。この背だと可愛いって言われることがほとんどないんだよね。全部が背のせいじゃないけど」

「奥田さんは美人さんだって客先でよく言われますよ?」

二人は客先に同行することが多いので、そういう反応をよく聞くのだろう。


「美人と可愛いは違うよ。なんだろ、可愛いって容姿だけじゃないし」

「可愛いって言われるのはやっぱり嬉しいですね」

「美人も可愛いも褒め言葉なのに、そんなに違うもん?」

「可愛いはちょっと特別かな。こんな背だと可愛いよりカッコイイとか綺麗とか目指しほうが早いし、なかなかね」


賢木くんは不思議そうに「へぇ」と言ってビールを飲んだ。この感覚はあまり男性にはわからないかもしれない。


「でもあの時、私はてっきり賢木が百音を慰めてそのまま二人が付き合うのかと思ったんだけどなー」

「ないですね」

「やめてくださいよー」と言う前に賢木くんに即答されてしまった。別にいいけど、先に言われてなんだか悔しい。
< 47 / 113 >

この作品をシェア

pagetop