そのアトリエは溺愛の檻
撮るよりも撮られる側なのではないかと疑いたくなるような容姿の彼は、その写真展を開いているフォトグラファーだった。そのシゲアキという名前以外はわからない美しい男に私は抱かれたのだ。


今までの人生の中でもこんなことなかった。学生時代にはハメを外したりしたけど、見ず知らずの人と一夜を、なんてことは決してなかった。
自己嫌悪だ。本気で凹む。自分がこんな軽い女だと思わなかった。そういうだらしない人間は何より嫌悪すべき存在だと思っていたのに。本当にどうしてこんなことになってしまったのか。

雨が強くなったから。酔っていたから。もっと写真の話を聞きたいから。言い訳だけならたくさんある。そんなどうとでもなる理由を積み上げて、彼と時間を過ごし、そして流れに身を任せたのは自分の意思だった。

ありえない。やっぱりどうかしていた。


だけど、だけど、本当に後悔してるんだけど、「その時」のことに関しては満足感しか思い出せなくて、複雑な気持ちになる。彼氏と別れてもうすぐ一年になる。男の人に触れられたのが久々で、なんというか、大切に扱われることに喜んでいる自分がいた。いや、もちろんこんなことはダメなんだけど。

でも、思い返してみても、女の扱いに慣れていたというか、上手だったというか。触れ方も言葉も優しくて、あんなの経験したことがなかった。

あんな出会いじゃなかったら、と少しだけ思わなくもない。だって、よく知りもしない相手と雰囲気に流されて寝ちゃうような女を好む男なんているはずないし、私だってそれは同じで、軽い男はこりごりだから。


そうだ、だからこそ、もう絶対あんな過ちは繰り返さないと心に誓う。
< 5 / 113 >

この作品をシェア

pagetop