そのアトリエは溺愛の檻
「なーんだ。でもよほど百音のこと気に入ったんだろうね。彼の活動拠点東京でしょ? 百音の撮影のためにわざわざ帰ってきてるんだし。すごい必要とされてるじゃん」


確かにそうなのだ。本人は避けたいとは言っていたけど仕事の話はメールや電話でもできるし、実際少しはしている。でも撮影となるとそうはいかない。前回に撮影のときは、金曜の夕方に来て、土曜の朝一の新幹線で帰っていったらしい。

私は比較的いつでも大丈夫だし無理して来なくてもいいのにと言うと、無理してでもこれは撮らないといけないものなのだと言っていて、その真剣さがかっこよかった。そして、これが芸術家というものなのだろうなとも思った。


彼がこの撮影に対してどれだけ真剣なのか回数を重ねるたびに実感が大きくなる。

時間をかけて地方と東京を行き来するのも惜しくないほど彼にとってこの撮影は重要で、そして他の人ではなく私が必要とされているのだとじわじわと感じている。
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