そのアトリエは溺愛の檻
彼の言葉で一気に現実に引き戻される。そして賢木くんの言ったことは、私も考えなかったわけじゃないし、あっても不思議ではないことだった。

「次くらいでまたサクッと食われるんじゃない?」

「いいじゃんいいじゃん、あんないい男なら。というかもう事後なんだし」

奥田さんのフォローも心苦しい。


「いえ、それは仕事で関わる前でしたから。今は仕事があるからそういう関係になるのは困るんです」

「仕事? なんで?」

「前みたいに迷惑かけたくないし、誰かと気まずくなるのも困るし、何より社長も創業50周年記念って意気込んでるから失敗できないです!」

「あー、そこは確かに重い」

「仕事はきちんと終えたい、これは本音です。仕事とプライベートが混同するのも嫌だからいろいろ気をつけてるのに、いつのまにか彼のこと意識してる自分がいて。
流されてるとは思いたくないけど、私、男性経験もそんなに多くはないし、前みたいに深みにはまるまで気づけないのかなって」


そこで言葉を止め、二人を見ると奥田さんが何か言いたそうにそわそわしていた。
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