そのアトリエは溺愛の檻
ひとしきり笑ったあと、奥田さんは息を整えながら、私に視線を向けた。


「でもさ、怖いのはわかるけど、もう少し自分の気持ちに正直になってもいいと思うよ。元彼が酷い奴だったからって、今後の恋愛を制限しなくてもいいと思うし。
それに仕事のことを抜きにしたら、彼のこといいなって思ってるんでしょ? 今の話聞いてたら百音が彼に惹かれてるって分かるよ」


「今は仕事抜きでは考えられません。リスクが大きすぎます。
それに、たとえ私がいいと思っても、彼からしたらただの被写体ですから」


ただの被写体。言葉にしてしまうと重かった。


そう、全てはモデルだから。彼にとってモデルとして大切なだけ。私はここを勘違いしてはいけない。


私はきっと酔って寝てしまう軽い女だと思われている。あの過剰なスキンシップもよくよく考えるとそれが影響しているのかもしれない。


自業自得だけど、結局彼にとって私はチョロい女なのだ。最初からそうだった。重秋が必要なのは私ではなく、私の外側だ。だから、本気になってもきっと悲しい思いをするだけだ。
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