そのアトリエは溺愛の檻
特別な撮影
「雨宮、今日はひとりで二軒目行ったりせずに帰れよ」

「わかってるって」

「飲みたいときは賢木が付き合ってくれるってさ。良かったね!」

「賢木くんの彼女に悪いからいいです」


賢木くんは私を異性としては甘やかさないけど友人としては割と甘やかしてくれていると思う。だからこそ甘えすぎないように気をつけている。

学生の頃からサバサバして姉御肌と言われてきたため、こういう頼れる男友達は初めてだったけど、この関係はとても楽だった。それに、好みでないとわかっているから変に男女を意識しなくてもいいし。じゃなきゃ重秋との話もできなかったし。



二人と別れ、タクシーを拾おうと大通りに向かって歩いている時に、電話が鳴った。画面を見ると「工藤 重秋」と表示されている。

仕事用の携帯を持っていないため緊急連絡用に自分の番号を伝えていたけど、かかって来たのはこれが初めてだった。一体何事だろうと、息を吸ってから通話ボタンを押した。


「はい、雨宮です」

さっきまでずっと彼のことを話していたせいで、少し声が緊張する。


『悪い、こんな時間に。今、外? 電話大丈夫?』

「はい」

耳元が少しくすぐったい。
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