そのアトリエは溺愛の檻
「嬉しいからちょっとだけ素直になってみようかなって」

恥ずかしくて小声になる。でも重秋には届いたようで、少し微笑んで私の頰を優しく撫でた。


「じゃあ俺も素直になっていい?」

「はい……」

「今、俺、すっごい百音にキスしたいんだけど、百音はどう?」


今まで意見を求められたことなんてないのに。なんでこんなこと、このタイミングで言わせるんだろう。どんな顔をしたらいいか迷って彼に背を向けた。


「私も、したいです」


言い終わる前に後ろから抱きしめられ、ゆっくりと振り向かされる。そして、顔が近づき、唇が重なる。

「百音、好き」


私も好き、そう心の中で返事をした。



何度か口付けを交わした後、ぼんやりと彼の顔の一点を見つめていると、不思議そうに「ん?」と聞かれた。

「いや、本当にリップが落ちちゃったなって」

彼の口が少し赤くなっている。

「百音が誘惑するから」


その言葉に、二人で顔を見合わせて笑った。


流されたとかじゃない。自分の意思だから、このキスを私は後悔しない。
< 72 / 113 >

この作品をシェア

pagetop