そのアトリエは溺愛の檻
その後もバルコニーのウッドチェアーに座り、ワインを飲みながら、いろいろと話を聞いた。

子供の頃、祖父にカメラを買ってもらって興味を持ったこと、大学でサークルに入って写真が楽しくになったこと、撮影でこの街を歩きそれまでよりもっと好きになったこと、そして進路で悩んだこと。

東京に出てからも下積み時代が大変だったこと、今の事務所の代表は名前だけで、優秀なスタッフに恵まれたからこうやってやりたいことが自由にできるということ。

そんな、ネットでは知ることのできない彼自身の話を私は興味深く聞いていた。


私も初めて、彼に自分の話をする。

百音という名前は父親が画家のクロード・モネが好きだったことと、母が音楽が好きだったことでつけられ、二百枚以上もの睡蓮を描いたモネように何か好きなことに熱中できる子になってほしいという願いが込められているということ。

しかし私は絵にも音楽にもそれほど興味がなく、バレエが好きだったこと。それがきっかけで髪を伸ばすようになったこと。中学生くらいから背が急激に伸びて、バレエをやめてしまったこと。背が活かせるバスケやバレーボールもやってみたけどあまり好きになれず、趣味は読書くらいになってしまったこと。


背が高いことをコンプレックスに思っていた時期もあったけど、会社で奥田さんに出会い、同じくらいの背で9センチのピンヒールで颯爽と歩く姿がかっこよくて見習おうと思ったこと。素敵な先輩がいてとても楽しいこと。
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