そのアトリエは溺愛の檻
写真について教えてくれた恩師か誰かだろうか。だけどさっきまでの話には出てこなかった。

尋ねてみたいけれど、とても懐かしそうな表情をするので、なんとなく気軽に聞けない。

彼に自分の心を開くことはできるけど、彼の心を私が開けるのにはまだ少しためらいがあった。


「だから俺はずっとミューズを求めてる。最高の一枚のためにね」


ミューズって確か、芸術の女神、だったはずだ。


彼も、好きなことを追求するアーティストだから、インスピレーションを湧き立たせるような女神が必要なのだろう。


「最高の作品、いつか私にも見せてください」

「もちろん。そのためにも今は百音の協力が欠かせないから、よろしく」


これまでのキャリアの中でもずっと追いかけてきて、未だ見つかっていないミューズが私なんて、そんな自惚れたことは考えていない。だけど、ミューズでなくてもいいからもう少しこうやって彼のモデルでいたいと思う。
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