そのアトリエは溺愛の檻


当分こちらには来れないと言っていた重秋から、明日からアトリエで過ごすことになったという連絡が入ったのは月曜日のことだった。

東京はいろいろと煩わしいらしく、スケジュールを調整したらしい。そこで、カレンダーの写真のサンプルも渡したいのでせっかくなら打ち合わせができないかと提案された。


どんなに気持ちが乗らなくても、私は仕事だと言われてしまうと断ることができない。


本当にいつもと変わらない連絡だった。
彼は私がどう思っているか考えないのだろうか。彼にとってわたしは割り切った存在として認識されているのかもしれない。



誰に見られているかわからないから念のために迎えを用意すると言われ、待ち合わせの日時を決めた。そして、今回は写真のやりとりがあるから、次の出社まで休みを跨がないように水曜日に行くことになった。


水曜日の16時半、待ち合わせ場所にいたのは、スラッと背の高い眼鏡をかけた男性で、見るからに上品なスーツを着ている。まさかこの人ではないだろうと思ったけど、他にそれらしい人はいない。

ゆっくりと近寄ってみると、どこかで見たことがある顔で「あれ?」と思った。


「雨宮さんですね。工藤重秋の弟の工藤冬樹です」
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