そのアトリエは溺愛の檻
煌びやかなビル街、懐かしさを感じる下町、波の音が聞こえそうな港町。どれも本物よりも強い色で悪く言えば派手とも言えるのに、いやらしく感じず、ずっと見ていたくなる。

そして最後の一枚はこの街の写真だった。アキの写真の特徴であるコントラストの強さが、この街をモダンなイメージに変えている。住み慣れた土地であるはずなのに、いや、だからこそ新鮮なのかもしれない。


「本当に素敵です」

私には何の決定権もないけど、これが倉橋のカレンダーになると思うと嬉しかったし誇らしかった。実際にそんなことはしないけど、お客様に配らずに自分が独り占めしたくなる。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。上の人達にも確認してまた連絡して」

「はい、伝えます」

「じゃあ今日は早く帰って体調治すこと。撮影はまた次回ね」

「はい」


水嶋雪乃とのことはショックだったけれど、彼の写真は素敵だった。どんなに酷いことをされても、作品で人を黙らせるのはさすがだった。

このカレンダーの写真を私たちのクライマックスにして、全ておしまいにしたい。今までのこともこのカレンダーのことも、悪い思い出にはしたくないから。できればもうモデルにはなりたくなかった。
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