そのアトリエは溺愛の檻
「そんなすごかったんですか? ちょっと気になるじゃないですか」

「コーヒー出すとき楽しみにしてて。じゃ、私はもう出るね。遅くなる場合は直帰するから、その時は連絡する」

「はい。ありがとうございます。いってらっしゃい」


奥田さんを見送ってから、給湯室に急ぎ、来客用に準備していたコーヒーを入れる。

でも奥田さんがあれだけ言うなんて、少し楽しみになってくる。さっき部長に聞いたら来年のカレンダーの件だと言っていたので、お客様はデザイナーさんかなと思っていたけど、もしかしたらモデルさんかもしれない。

倉橋はそんなに大きくない会社だけど、毎年販促用に力を入れたカレンダーを作っている。お客様からの評判も良いらしくて、社内でも来年はどんなカレンダーかとよく話題になる。

でも、毎年そこそこ時間をかけて作っているのは知っているけど、今年は動くのが早すぎるような気がしないでもない。だってまだ四月なのに。人気のデザイナーかモデルでも起用するのかと頭を捻る。来年創業50周年だから特別なのだろうか。


まぁいいか。販促物の仕事は私の関わるものではないし、コーヒーを出して顔だけこっそり見て退散しよう。そう思って応接室向かった。
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