ARRIA
時が過ぎれば、自然とそんな想いは忘れ現実を受け入れるままに大人になっていくかもしれない事に不安とゆうか焦りがずっとあったけれど、いわゆる大人になる迄の猶予期間に選ばれてここにいるのは望み続けたからであって、だからやはりこれがあたしの運命だったんだと思う。
ふと目の端に目立つ何かが映った。
周りを囲む数百冊の中から手にとったその一冊は、一際古い本だった。真っ黒の表紙には題名すら無かった。

無造作に頁をめくると少女を食らっている化け物が描かれていて、あたしは思わず本を落としてしまった。
何の本なのだろう。
拾おうとして身を屈めた瞬間、カラン、と音がした。

音がした方に目をやると全身が大きく脈打った。

暗闇に球体の何かが浮かんでいる。

両手を広げれば包めそうな大きさの青白く光る何かはゆっくりとこちらに近づいて来る。
輪郭が、それが何かはっきりと判る近さまで来た時あたしは戦慄した。
声が出ない!

その球体の表面は幾つもの顔だった。無数の顔が集まって球体を為している。

あたしはこの感情を形容できる言葉を知らない。必死にヒジュラを呼ぼうとするけど喉が声を出せず、息が絞り出される音だけが響く。
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