ARRIA
夕暮れが近い。

結局このままシータには会えずに街を出るかと思うとどうにもやり切れない。


まだ時間はあるし少し街を見て回ろう。

家の戸に手をかけると母さんが後ろからあたしの腕を掴んだ。

「どこにいくの」


隈ができている瞳は何処にも行くな、と声にならない声で語りかけていた。

「シータが気になるから少し街を見てくるだけ」

母さんは独りきりになる事をきっと想像してしまっている。

あたしにはもう何もしてあげれる事が無い。だからせめて探しに行く。


「すぐ戻るから」


そう言って家を後にした。背中から母さんの泣き声が聞こえそうな気がして胸が熱くなった。

母さんは母親とアーリアの民とゆう二つの意識の間で戦っていて、答えを出す事ができずにただ耐えているのだと思う。
だからこそシータの支えが必要なのに。


陽が落ち始める中、自然と足が速くなった。



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